長らく手こずっていた「虫損不開」資料の仕上げです。
面積が広い資料は虫損が多く、思いのほか紙自体が弱っていました。「ふのり」をかけましたが、その後薄糊をかけてポリエステルをはがし虫損直しをする段階で、さらにぽろぽろと繊維がポリエステルについてきてしまいました。
正直なところ、破損を拡大してしまいました。
前回も反省として記しましたが、本当に状態が酷く修補の技術が未熟な場合は無理をせず、「ふのり」をかけて固定した状態で保存しておくだけでも有用なのではないか…と思いました。
下の写真の上段2枚は、比較的大きく残ってた資料。下段右の5点は、ある程度文字情報が残っているものを裏打ちした資料。下段左はほとんど文字情報がなかったけれど、数㎝の面積を残している資料をまとめて保存した状態です。
最終的に、本体と断片が確実に接合できるものはありませんでしたが、このまま保管することになりました。

そして、新たな資料にとりかかりました。
前回の反省を踏まえ、さらに慎重な調査と開披作業を心がけました。
前回の資料に比べると開披は容易でした。下の写真からわかるように、下部が欠損しています。
このような資料を修補するとき、出来上がり寸法をどうするか、最初に検討します。
この資料が一紙だったら、横の寸法から縦の寸法を推測することがある程度可能です。それには、明治10年に刊行された『諸国紙名録』を参考にします。この紙名録には、国内で作られた和紙の縦横寸法が記されています。
たとえば、「美濃半紙」の場合は、縦7寸5分、横1尺2分、という具合です。
今回の資料は、継紙だったので、横の寸法の予想がつかなかったのですが、横山先生の助言を受けながら資料をよくみると、右端が刃物のようなもので斜めに切断されていることがわかりました。先生の予想では、「これは(半紙を継いだ)巻紙をつかっているのではないか」とのことでした。継ぎ目の上に文字が書かれていることからも、この和紙が最初から巻紙であったことが想像できます。
おそらく半紙を継いだ巻紙だろう…という推測。そして、表題が「記」という1文字であることから、常識的な範囲で、この「記」は縦位置の中心かやや上方に書かれるだろう…という推測。
さらに、関東地方で流通している主要な紙の一つが下野産であり、そのなかに「西之内」と呼ばれる和紙があって、帳面や証書などに使われ、縦1尺1寸・横1尺6寸であることから、このくらいのサイズの和紙を半紙(縦半分に切ったもの)として使用したのではないか。
これらの推測をもとに、縦を本紙半分の5寸5分にしよう、という結論に達しました。下の写真に黒枠を付けてみました。

念のためこの資料も「ふのり」をかけ、下部を足して裏打ちする予定です。
今日は2枚に分かれている状態でそれぞれに「ふのり」をかけ、乾燥させるところまで作業しました。
次回は2枚を接合したあと、下部に足し紙をして縦5寸5分の大きさを復元し、少し大きめに裏打ち紙を付ける作業をします。
〈研修日:2017/04/19 後藤恵菜〉
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